藤崎 葵 さん(20代後半・女性)(仮名)
経膣分娩で2020年6月に長女・一楓さんを出産。
インタビュー: 2020/12/14

1.早朝

あ、お腹が重い。
目覚めてすぐ、いつもと違うと思った。二日前におしるしがあったから、そろそろ来るころだろうと思っていたけれど……もしかして。

時計を見ると、朝の五時半。体を起こしてお腹に手をあてていると、ゴロゴロしながらスマホで新聞を読む翼と目が合った。

「大丈夫?」
心配そうな顔をした翼が、布団の近くに戻ってくる。
「うーん、なんかいつもと違うかも」
「痛い?」
どうだろう。痛いっていうほどではない。夜中にトイレに行ったときは、いつもと同じように少し張っていた。今は、お腹の下のほう、奥がずーんと重い感じ。少し強い生理痛みたい。陣痛は波のように押し寄せる痛みだと思っていたけれど、そうでもない。

「あまり痛くないや」
「そう? もしあれだったら……その、会社休みにするからね」

会社を休んでもらって、もし違っていたら申し訳ないなと思う。産院からもらったパンフレットには、初産だと出産まで時間がかかると書いてあった。陣痛がきて入院手続をしても、途中で陣痛が止まると帰宅する場合もあるそうだ。それだけで、一日七万円。やだなあ。ちゃんと陣痛だってわかってからにしよう。

そう思っていたら、だんだん痛みが強くなってきた。
スマホを持って、ダウンロードしておいたアプリを開く。痛くなったときと痛みが引いたときに、ボタンをタップする。九分、十一分、今度は六分。不規則で、痛みが何分間隔なのかつかめない。妊婦検診のとき、助産師さんに「痛みの間隔が十分以内になったら連絡してください」と言われていたけれど、これはどうなんだろう。

「なおちゃんにきいてみよう」と呟いて、三姉妹のグループラインを開く。一番上の菜緒姉ちゃんは、子ども二人の出産経験がある。

「本陣痛って規則的というけれど、ある程度痛いもの? すごく痛いのは合間でくるだけなんだけど」

まだ朝の六時半。まだ寝ているかもしれないと思いながら待っていたら、数分で返事がきた。
「本陣痛? それは、痛みを感じるよ。前駆陣痛が生理痛みたいな感じで、本陣痛は明らかにそれとは違うのがわかるよ。陣痛きた?」
「きたかも」
「やったね! 間隔を測って、まず病院に連絡しなきゃ!」
「間隔は測っていて、すでに五分から十分。でも、規則的かどうかよくわからない。波がきていないときも痛いし」
アプリを見ながら答えると、続きを打つ前に、急かすように菜緒姉ちゃんから返事がくる。
「それはもう早く行かないとまずいレベルだよ! いきなり間隔縮まっちゃうからさ! 飲み物持ちなよ! GoGo!」

そっか。陣痛か。こんな感じなのか。昨日の夜、「もしかしたら今夜か明け方にくるかもしれないね」なんて翼と話していたけれど、本当にきた。
「でもさ、昨晩何回かトイレに起きて、朝起きたらもうこんな感じだよ」
そう送ると、菜緒姉ちゃんが「でも、よかったじゃん! がんばってね!」と背中を押してくれる。

「陣痛だよGoGoって言われた」
スマホの画面から顔を上げて翼に言うと、「じゃあ俺、フレックスにするよ」と会社に連絡してくれた。
なんだか、いよいよだという気がしてくる。

母子手帳と一緒に入れていた診察券を取り出して、病院に電話をかける。陣痛の間隔を伝えると、助産師さんに「あー、まだ陣痛の間隔が不規則なんですね」と悠長な感じで告げられた。
「朝ごはんをまだ食べていないなら、しっかり食べてから来てください」
そうか、まあそうだよね。朝ごはん食べなくちゃ。そう思って、電話を切ったものの、陣痛が始まったからか、いつも以上にお腹が重く立ち上がる気力がなかった。
「翼、あんぱんとスポーツドリンクを取ってきてくれない?」
おしるしがあったときに、近所のドラッグストアで買っておいたものだ。

袋を開いて、あんぱんを食べ始める。また痛みがきた。食べかけのあんぱんを置いて、這いつくばるようにしてトイレに向かう。

トイレでも陣痛がきた。痛みに耐えながら、雑誌のコラムに載っていた体験談を思い出す。出産中にトイレに行きたくなったという人がいた。お腹に力を入れていきむのだから、そうなるのも頷ける。でも、いやだな。がんばってうんちしてから病院に行こう。
うんうん唸って、がんばって出した。ちょっと出血した。

トイレから出るころには、もう動けなくなっていた。痛い。一瞬、痛みがおさまったかと思うと、すぐまた激しい痛みが襲ってくる。準備。早く準備しなくちゃ。

「翼……出る準備、する」
近くに来てくれた翼は「オーケー」と答えたものの、どう動いてよいのかわからない様子だった。
「着替えを持ってきて。あと、入院のバッグ」
「わ、わかった」
寝室に荷物を取りに行く翼を見ながら、食べかけのあんぱんを再び手に取った。とにかく、朝ごはん食べなくちゃ。どうしよう、きつくなっちゃった。動けなくなっちゃった。焦りながら、持ち物を頭の中でチェックする。

「バッグってこれだよね?」
戻ってきた翼が、ボストンバッグを掲げて見せる。
「そう、あー、それと小さなバッグ。いつもわたしが持ってるやつ」
「これ?」
「ちがう、青色の」
「車に積んでおけばいい?」
「いや、ちょっと待って。最後にする……う、痛っ…」
「大丈夫?」
心配そうな翼に、いいから準備していて、と目で合図する。

早く病院に行かなきゃと思うのに、用意してあるはずの荷物が全然そろわなかった。翼と意思疎通が図れない。ペットボトルにストロー入れるだけなのに、ものすごく時間がかかっている気がした。時間に余裕はなさそうだ。早く、早く。陣痛の間隔は、もう三分になっている。短くなっちゃった。
「早く、翼―」
家じゅうを歩き回っている翼に、口頭で説明しながら、あんぱんをがんばって食べた。
なんとか食べ終えて車に乗り込むまで、二時間近くかかった。

2.背中

病院までは、翼が運転してくれた。
妊婦検診で、一度送ってもらった道。後部座席に横になっているから窓の外は見えないけれど、どのあたりを走っているのかは、なんとなくわかる。薄暗い梅雨の空と対照的に、車の中では、西野カナのノリノリの曲が流れていた。
車の揺れに合わせて、座席に敷いたレジャーシートがしゃかしゃかと音を立てる。体向きを変えようとして少し動くと、家を出る前につけた生理ナプキンで、おしりのまわりが少しごわついた。

そうだ、水分を摂っておかなくちゃ。
「翼……、ウィダーゼリー」
「飲む? ちょっと待って」
信号待ちで車が止まる。助手席に置いたカバンの中を、翼がごそごそと探る。
「はい」と、ウィダーゼリーを後ろに差し出す翼の背中を見ながら、ああ、この光景が記憶に残るんだろうなと思った。この、病院に行く朝のことを。
信号が青になって、車が走り出す。
お腹に手を当てると、ほんのり温かい。何度も何度も撫でてきた、まるいお腹。やっときた。やっと陣痛がきてくれた。今日生まれるんだ。

病院についたのは、九時頃だった。駐車場に車を停めたものの、どこに行けばいいかわからず、もう一度電話をかける。
「はい、✕✕病院です」
電話は総合案内に繋がった。ええと、出産だから。……う、またお腹が押される。
「婦人科……産科! 産科産科!」
絞り出すように声を出すと、翼の手が背中を支えてくれる。
「産科ですね、お繋ぎします。どうしましたか?」
「ふじさき……あおい! どこ行けば、いい? ……ううっ」
「もう着いたんですね! いま行きます!」
途中から痛くて話すどころではなくなった。電話を代わってくれた翼が「歩けないので、車椅子をお願いします」と伝えてくれる。待っていると、助産師さん二人が車椅子を持って急いで来てくれた。
もう、一人で立つこともできない。支えられて、なんとか車椅子に移る。
その瞬間、翼と目が合った。そうか。翼とはここでバイバイなんだ。本当は立ち合い出産がよかったけれど、感染症対策のためにその希望は叶わなくなった。翼は、分娩室どころか、病棟にも入れない。ここから先は、一人。
「バイバイ…」
車椅子に乗りながら、見上げるようにして翼に言った。うん、頑張ってねと小さく頷く翼が一瞬見えて、すぐに車椅子が動く。
本当は、もっと言っておきたい言葉もあった。がんばってくるね、待っていてね、とか、送ってくれてありがとう、とか。でも、バイバイしか言えなかった。

3.分娩室

車椅子は、急いで病棟の中を移動した。いつもより目線が低い。右、右、左。角を曲がるたびに、ふわっと空気が動いて、風が顔に当たる。緊急用のエレベーターに乗せられて、産科のフロアで扉が開いた。廊下を走りながら、車椅子を押している助産師さんが大声で叫ぶ。
「分娩室A、あいていますか?」
「はいどうぞー」と、別の声。
「向かいます!」
「藤崎さん、こっちです!」
「はい!」
「乗せられますか?」
「はいっ!」
あっという間に、分娩台に乗せられた。助産師さんが、靴を脱がせてくれる。
仰向けに寝た瞬間、医師二人、助産師四人が、ぐるりとベッドを囲んでいるのがわかった。あ、これ医療ドラマによくあるような感じ。
「藤崎さん、がんばりましょうね! お願いします!」
「ああ……、お願い……します……」
照明が眩しくて、まばたきをしながら答える。うっすらとクラシックが流れている。頭を少し浮かすと、部屋全体が見えた。六畳くらいの広さに、このベッドが一つ。分娩室だ。
陣痛室で過ごすわけじゃなくていきなり分娩台。やったあ、分娩が近いんだ。

しばらくすると、押し寄せる感じの、強い陣痛がくるようになった。痛いというより、押し出されるような感じ。
陣痛がひどくて、のどが渇く。
「お水ください」
ベッドの脇にいる助産師さんに声をかけると、申し訳なさそうな顔で「お水は、飲めないんです」と言われる。
そんな。飲めないなんて。きっと、さっきの注射のせいだ。「母体が持っている細菌が胎児に移ってはいけないから、分娩前に注射します」と、検診のときから説明を受けていた。せっかく翼に、ペットボトルにストローを差してもらったのに。まじか。注射の前に飲んでおけばよかった。翼が渡してくれたメッセージ付きの写真はカバンの中だ……枕元に持っていればよかった。
後悔してもしかたがない。ふうっと息を吐こうとしたら、また陣痛がくる。
「ああ、陣痛きましたね、ふー」
助産師さんが気づいて、腰に手を添えてくれる。
支えられて少し安心するけれど、これだけか、とも思う。雑誌のコラムに、陣痛がきたときテニスボールをお尻に当てると書いてあったから、テニスボールもゴルフボールもいろいろ用意していた。でも、出番こないじゃん。残念。助産師さんのいろんなマッサージを受けられるのかと思っていたら、そうでもないし。

「痛み、どうですか?」
医師が部屋に入ってきた。新しいビニール手袋をはめるのが見える。ああ、内診だ。仰向けのまま、両足を開いた。指が入ってきて、子宮口を触るのがわかる。
「頭が下りてこないですね」
手袋をぱちんと外しながら、医師が言った。
「子宮口は全開ですが、赤ちゃんの頭が下がらないと出産できません。それを待つのみです」
そうなのか。早く下がれ、下がれ。
医師が部屋を出て行ってからも、数分おきに陣痛がきた。陣痛がくるたびに力が入り、体がつりそうになる。力を入れないようにするには、どういう体勢を取ればいいんだろう。
「横を向いてもいいですか?」
助産師さんに聞くと、今度は「いいですよ」と微笑まれた。
いいんかーい。心の中でツッコミを入れながら、よいしょ、と体の向きを変える。お腹の重みがベッドに移って、少しラクになった。もっと早く聞けばよかった。

陣痛は、やがて三十秒に一回、ぐわーんとくる感じに変わった。右を向いたり左を向いたりしながら、うにょうにょと体を動かす。
「藤崎さん」と、助産師さんにスマホを渡される。「待ってて、と旦那さんに連絡してください」
スマホを受け取って、言われた通り「待ってて」と翼に送った。画面の時計を見ると、九時半。病院に着いてから30分経っている。助産師さんにスマホを返した。
やったあ。待っててってことは、出産が近いんだ。
医師に「赤ちゃんが骨盤を通れるか、微妙ですね」と言われたけれど、骨盤を通ってくれれば産めるってことだ。陣痛促進剤を打つために週末に入院する予定だったけれど、打たずに陣痛がきたからよかった。

ふと、どどど、と動くのがわかった。あ、動いた。これが、赤ちゃんが頭を旋回させながら下がっていくっていうやつか。お腹の中で赤ちゃんが動くから、それに突き動かされるように、体が海老反りになる。力を入れないように、息をふーっと吐く。
痛みに合わせて動くのを、何度くり返しただろう。耐える時間は、かなり長く感じた。

また、ぐわーんと押される。陣痛だ。仰向けになった拍子に、生温かいのが一気にどぅるっ!と出てくるのがわかった。あ、これは。
「破水ですか」と聞くと、「そうです」と答えが返ってきた。やったあ、破水がきた。
「ベッドの縁のここに、足を置いてください」
助産師さんの手が足首に触れ、両足がそれぞれ台に乗せられた。左右に大きく足を開く。
「いきんでいいですよ」
そう言われてからは、ラクだった。
いきむのってラク。波に合わせて、体の下のほうに力を向ける。じょうずですね、と助産師さんにも言われる。いきむたびに、これを最後にするぞと思うけれど、なかなか赤ちゃんは出ない。体の向きをもう変えられなくて、お尻と太ももが、何度もつりそうになる。
「つるつるつるー!」
つりそうになって叫ぶと、助産師さんが体をさすってくれる。

医師は、破水した後も、赤ちゃんが骨盤を通れるかどうか確認していた。赤ちゃんの頭とわたしの骨盤の大きさを比べている。
この期に及んで、産めないなんて言われたらいやだな。もし通れなかったら、緊急帝王切開になっちゃう。どうか通ってほしい、と願いながら、いきんだ。

4.誕生

何度いきんだだろう。破水してから二十分後、ついに赤ちゃんが出てきた。医師が、赤ちゃんの頭を支えてくれているのがわかる。ゆっくり出てくるのかと思ったら、ぴろぴろーという感じで、一瞬でラクになった。
やったあ。出た。赤ちゃんの全身が出て、「うんぎゃあ」と声が聞こえた。
助産師さんが、生まれたばかりの赤ちゃんを胸の上に乗せてくれる。
あったかい。ああ、ちゃんと重いし、泣いている。よかった。

「一楓、お母さんですよ、初めまして」
赤ちゃんに呼びかける。翼とふたりで考えた名前だ。一楓は、さっきまで泣いていたのに、話しかけた瞬間に泣き止んでくれた。
「生まれてくれてありがとう。お父さんは翼ですよ」
ほんとうは立ち合い出産をしたかった。翼がこの子に会えるのは、退院後だ。
そうだ、ちゃんと顔を見ておこう。よくドラマで、出産後の赤ちゃん取り違え事件とか、あるし。
「顔を見せてください」と言うと、助産師さんが一楓の体を少し動かしてくれる。
「お母さんのことをしっかり見ていますよ」
確かにと思った。一楓が、はっきりこちらを見ていた。
ちゃんと人間らしい顔。エコーでしか見たことがなかったその顔を、じっと観察する。目があって、鼻があって、口もあるな。髪の毛がけっこう生えている。
助産師さんが囲んでくれて、「おめでとうございます」と口々に言われる。
「皆さんありがとうございました」
胸に一楓の温もりを感じながら、ああ、生まれたんだと思った。

いつのまに一楓は助産師さんに抱かれたのか、少し離れたところで、うんぎゃあうんぎゃあという声が聞こえた。その泣き声が遠くなっていくので、心配になってたずねる。
「赤ちゃんどこですか」
お腹の中にずっといたのが、急にいなくなったようで、なんだか不安になる。助産師さんが顔の近くまで寄ってきて、微笑みながら答えてくれた。
「大丈夫ですよ、いま体重測定していますよ」
どうやら、赤ちゃんは生まれてすぐに、体重測定したり、体を拭いたりと、忙しいようだ。
「このあと説明しにきます」と言って、医師は去って行った。
スマホを取ってもらい、翼に連絡をする。
「うまれた!元気に声を上げているよ」
そういえば、破水の前に「待ってて」と連絡してから、返事も見ていなかった。翼はずっと駐車場で待ってくれていたようだ。両家への報告をお願いする。助産師さんから聞いた体重や退院日などを伝えた。

「お子さん、低体重なので、検査入院します」
戻ってきた医師に、「同意書にサインをしてください」と紙を渡された。2,500グラム以下の子どもは、発育の促進を優先するためにミルクを医師の指導のもと与えます、と書いてあった。「はい」にサインをして、できるだけ早めに母乳を与えたいですと書き添えた。
母乳をすぐにあげられないのではないかと不安だった。ICUに入ると、母乳を届けるのだと入院案内に書いてあった。ミルクばかり与えられてしまったら困る。

5.はじまり

夕方になると、ゆっくり体を動かせるようになった。廊下を歩いていると、向こうのほうからベッドに入って運ばれてくる赤ちゃんが見えた。
「もしかして、藤崎さんですか?」と、ベッドを押す助産師さんが声をかけてくる。
ああ、これがうちの子か! ベッドの近くに行って赤ちゃんの顔を見る。うちの子だ、うちの子だ。
「説明があるので、こちらへ来てください」
と言われて、授乳室に案内された。
検査の結果、母子同室できることになったと言われた。ただ、低体重なのでミルクを足すそうだ。とりあえず、いっしょにいられるようでよかった。眠っている一楓の顔を見て、ほっとした。

それから、夕食が運ばれてきても、夜になっても、一楓はずっと眠っていた。
夜になってちょっと目が覚めたので、助産師さんにミルクをもらって初めての授乳をした。一楓は、起きているようでも、全然目を開けてくれない。うまく飲めなくて、たった10ccを飲むのに、すごく時間がかかった。
「これから、少しずつ慣れていきましょう」
助産師さんのゆったりとした口調に、少し安心する。母乳も出てくるよう、乳首マッサージの方法を教えてもらった。

一楓は、再び眠った。
そうだ、と急に気づいて、スマホを取り出す。生まれた日のうちに写真を撮らなくちゃ。暗闇の中で写真を撮った。
かわいい。でも、この写真は、翼にも送らないようにしよう。初めて見る自分の娘は、自分の目で見たほうがいい。
撮った写真を誰にも送らず、スマホを置く。

出産という大仕事を終えた身体は、想像以上にぼろぼろだった。それでも日付が変わる前に、いまの想いを手紙に綴っておきたい。痛むお尻に円座クッションをあてながら、翼と一楓、それぞれに手紙を書いた。

「元気に産まれてくれてありがとう。お父さんと愛情たっぷり育てるからね。一楓がこれから幸せな人生を送れますように。」

一楓がお腹から出た瞬間を振り返って、また涙がでてきた。

目を閉じると、静かな部屋に、一楓の寝息が聞こえた。
6月25日。今日が、一楓の誕生日。



この文章は、インタビューの内容をもとに執筆しています。