りんちゃんへ

Minさん(40代・女性)
2021年8月に長女りんさんを出産。
想いをつむいだ日: 2023/2/7

りんちゃんへ

春から保育園に入園するりんちゃん。今まで近くにいたけれど、これからはひとりの人として、人生を歩んでゆくんだね。新しい世界に踏み出すりんちゃんを、温かく送り出す気持ちです。

りんちゃん。りんちゃんがきてくれて、ママは本当にうれしかったんだ。今の想いを残しておこうと思って、手紙を書くことにしました。

羊水検査と一生のお願い

りんちゃんのことは、妊娠する前から、りんちゃんって呼んでいました。パパもママもきっと女の子がきてくれるって予感がしてたの。
「りん」って名前の響きがかわいいねという話から始まって、それから毎月のように「りんちゃんがんばれ、りんちゃん早くおいで」って願っていたんだよ。

『ベビーシューズを玄関に飾ると赤ちゃんがきてくれる』というジンクスを聞いて、選んだ靴を寝室に飾りました。
「可愛い服が足りないんじゃない?」ってワンピースも飾ったら、2か月後くらいにりんちゃんがきてくれたね。見つけてくれて、ありがとう。

りんちゃんがママのお腹にきてくれて、本当にうれしかった! ママのお腹にきてくれた日は、パパとママの結婚記念日。素敵な日にきてくれた子だなと思っていて。
だから、妊娠がわかったときの検査で、赤ちゃんが大きく育つ可能性は低いと言われたのだけど、りんちゃんなら絶対に乗り越えてくれるってママは信じていたよ。

赤ちゃんを包む部屋を「胎嚢(たいのう)」というのだけど、りんちゃんの胎嚢は小さかったので、検査を受けることにしました。
血液検査と胎児エコーの結果、「染色体異常や、心臓に何か疾患があるかもしれない」と言われ、もっと詳しく調べるために絨毛検査を。

その結果…「18番目の染色体に小さな欠損が見つかりました。ただそれは胎盤側の異常か、赤ちゃん側の異常か、どちらなのかわからない。確率は半分。もし異常があるのが赤ちゃん側だとしたら、染色体異常があります」と言われていたの。

それは、世界に50例くらいしかない重い病気をもっている可能性があるということ。寝たきりになるかもしれない。歩けないし、喋ることもできないかもしれない。

りんちゃんの状態をはっきり知りたくて、さらに羊水検査も受けました。どちらも細かい検査なので、アメリカに送って解析してもらわないといけません。結果が出るまでの数か月間ずっと不安でした。

りんちゃんの未来を思って、あきらめるという考えもちらっと頭をよぎりました。
でも、あきらめるならば、わたしたち親の意思で、生きているりんちゃんを無理やり外に出すことになる。そんなひどいことをわたしはできるのか。できない。そんなこと、できない。りんちゃんががんばってくれているのにそんなことできない。でも、産んであげるべきなのか。りんちゃんは幸せになれるんだろうか。

考えても考えても答えが出なくて、たぶん、大人になってから一番泣いたと思う。どうか、赤ちゃん側でいないでほしいと願いました。

りんちゃんに会えるかわからないけれど、お腹の中ですごいがんばってくれているのを感じていたの。胎児エコーのときの動画や写真を毎日見てた。動いてるりんちゃんを見て、愛おしくてたまらなかった。
「絶対に絶対に会いたい。会えますように。一生のお願いをここで使います」と、ずっと祈っていたんだよ。

きっと育ってくれる

手紙を書いていて思い出したのだけど、検査結果を待っているあいだに、りんちゃんのひいおばあちゃんが亡くなったの。そのとき、おばあちゃんが「命をつないでもらったから、赤ちゃんは絶対大丈夫だよ」って言ってくれたんだ。

ひいおばあちゃんが亡くなって1週間後くらいに検査結果が出て、異常があるのは胎盤側だとわかりました。
赤ちゃんは大丈夫。これなら生まれてこれる。
心の中で、ひいおばあちゃんに「命をつないでくれて、ありがとう」ってお礼を伝えました。りんちゃんのおばあちゃんが生まれる前にも、おばあちゃんのおばあちゃんが亡くなったらしいの。

命をつないでいく。
偶然かもしれないけれど、ひいおばあちゃんがりんちゃんの命を守ってくれたのだと、そのとき強く実感しました。

心疾患は手術すればいい。完璧には治せなくても、一緒に生きていける。一緒に乗り越えていける。
それに、そのときの検査結果で、赤ちゃんは女の子だったとわかったの。やっぱりりんちゃんだった!りんちゃん、生まれておいで! と思ったよ。妊娠5か月になって、ようやくわたしもママになれたという気持ちでした。

りんちゃんはずっとちっちゃかったので、「がんばって大きくなろうね」と話しかけていたよ。先生が「ちっちゃいな」と言っても、「うちの子はマイペースなんで」って気持ちでした。
りんちゃんはきっと育ってくれると信じてた。
ちょっとちっちゃいくらい、なんてことない。元気に生まれてきてくれればそれだけでいい。

ずっとこの声が聴きたかった

臨月に入った頃、お腹の中でりんちゃんが育つペースがゆっくりになったので、入院して様子を見ながら出産する日を見極めることになりました。
今思えば、その1か月間が、りんちゃんとずっと2人でいられる時間だったね。好きなときにりんちゃんに喋りかけることができたし、毎日モニターでりんちゃんの様子を知ることもできました。ずっと、りんちゃんと一緒にいる感覚で、生まれてくるのをすごく楽しみにしていたんだよ。

予定日の1週間前、夜ごはんを食べ終わってのんびりしていたら、先生が来て「今から産みましょう」って言われて。あまりに急でびっくりしちゃった。お腹の中で大きくなってから産む予定だったけれど、りんちゃんの心拍が下がることがあるので早めに出してあげることになったの。
準備が整って、夜23時頃に陣痛が始まりました。そして翌日に、緊急帝王切開になりました。りんちゃんを早く出してあげたい、とにかくりんちゃんが無事に生まれてきますように、とママは願っていたよ。

生まれた瞬間、りんちゃんは泣いてくれたね。
ああ、ずっとこの声が聴きたかった。
この瞬間を待ってた! って思ったよ。

ちゃんと生まれてきてくれた。
それだけで、本当にうれしかったの。

がんばってここまで大きくなった。ちっちゃいんだけどね、他の子に比べたら。でも、わたしにとってはここまで大きくなってくれたという気持ちでした。

生まれたりんちゃんに会えたのは、たった10秒くらい。りんちゃんは、心疾患の手術に向けてすぐにNICUに入院しました。面会は1日15分。しかも、ママが入院しているあいだは、パパと一緒にはりんちゃんに会えなかったの。
ママの退院を一日早めてもらって、やっと家族三人で会えました。パパは、りんちゃんに会えてすごく喜んでいたよ。念願の娘って感じで。

早くマスク無しで会いたいな

ママが退院してから、面会は1日1時間×週2回になりました。りんちゃんに会いに行く日が待ち遠しかったな。
途中から回数が増えて毎日行けるようになったけれど、それでも1時間しか会えなくて……ほとんど眠っているんだよね。ずっと目を閉じていて。看護師さんに聞くと「そうですか? よく目を開けていますよ」と言われて、ちょっと羨ましかったな。

ようやく目を開けているりんちゃんを見れたのは、生まれて3週間くらい経ってから。初めてわたしを見て、「あっ」という表情をしてくれて。かわいかったなあ。やっと見てくれた! って思ったよ。その瞬間のかわいいりんちゃんの姿、バッチリ動画に残っています!

あと、マスクをつけているから、パパとママだとわかってくれているのかちょっと不安でした。ビニールのガウンを着て手袋もして、抱っこしていたの。
新生児のにおいが嗅ぎたい~って思ってた。よく「赤ちゃんはいい匂い」っていうから。看護師さんがいないところで「ちょっとだけ~」ってこっそりマスクを外して、りんちゃんの匂いを嗅いでいました。家に持って帰る洋服の匂いも嗅いでいました。それくらいしか、りんちゃんの匂いを嗅ぐ機会がなかったの。早くマスク無しで思い切り会いたいなと思っていたよ。

一人じゃないからね

1回目の心臓の手術のときね、もう傷のない綺麗な胸は見れなくなってしまうからって、病院で写真を撮りました。ごめんねという気持ちでいっぱいだった。

心臓の病気があるって、きっと、普通の元気な人よりもつらいことがいっぱいあると思う。
胸の傷が残ってしまうから、おしゃれをしたいのに胸元の開いた服が着られないとか、好きな人ができたときにちょっと勇気が出ないとかあると思う。

でも、一人じゃないからね。一緒に乗り越えたいし、できる限り支えていきたい。つらいことがあったらいつでも抱きしめてあげる。ママは、いつでもここにいるから。
つらいことがあったら、ママに言えば大丈夫ってりんちゃんが安心できるように、当たり前のように近くにいてあげられたらいいなと思っています。

2回目の手術後、付き添い入院のときは、かすれた弱い泣き声でこっちを見て助けを求めるように泣いているりんちゃんを見て、一生この子を守っていくと誓ったんだ。

がんばって生まれてきてくれてありがとう。
本当に、生まれてきてくれたことがすごい奇跡なんだよ。

りんちゃんが初めて退院した日は、忘れられません。パパと2人で迎えに行って、初めて外に出たりんちゃんは目をキラキラさせていました。12月の冷たい風に、ハッと驚いていたね。夏生まれなのに、夏を感じないまま冬になっていました。

外に出れるのが当たり前じゃない場所にいた。NICUには大きな子たちもいて、100%退院できるわけじゃないなと思っていたの。
家までの道、目を輝かせて車の外を眺めているりんちゃんを見て、乗り越えてくれてありがとうって思った。退院して一緒に家に帰れる日が、ひとつの目標だったから。感動して胸がいっぱいになったよ。

それから、りんちゃんと一緒に過ごしてきた日々は、すごくすごく幸せでした。

りんちゃんが初めて歩いた瞬間はすごくうれしかったなあ。
ある日、おうちで急に一歩踏み出そうとしている様子があったの。ちょっとだけ離れて「こっちだよ」と声を掛けたら、りんちゃんはすごくキラキラした笑顔で、ママのところまで歩いて来てくれたね。
あのときのりんちゃんの笑顔、一生忘れない。ママが両手を広げたら、りんちゃんは飛び込んで来てくれて、「がんばったね!」って抱きしめながらすごくうれしかった。

うれしいのと同時に、ちょっとさみしかったなあ。一人で歩けるんだって思って。
これから一生歩くじゃない? りんちゃんは、いろんなところに歩いて行く。今までずっと一緒に過ごしていたりんちゃんが、わたしが見ていないところでいろいろ経験してくる。
なんかね、人生長いからつらいときもあるだろうけど、つらいことがあった日もこうやって歩いて家に帰ってくるんだなと思ったら……
つらいことがあった日は、抱きしめてあげたい、抱きしめてあげようと、心に誓いました。

春から保育園

今1歳半になったりんちゃんは、高いところに登って降りるのが好き。さっきもベッドから降りるのを練習し始めちゃって。ぎりぎり足がつかないところ。慎重派なのに、チャレンジャーだよね!

あと、手先が器用。貯金箱にお金みたいなのを入れたり、シールを部屋中に貼ったりしています。思いがけないところにシールがペタペタ貼ってあるから、それを見つけるのが楽しい。テレビ、冷蔵庫、わたしの顔に貼ってあることもあります。
物を隠すことも増えたね。今日もメモを書いていたのに、りんちゃんに隠されちゃって。さっきまでここにあったのにってバタバタしていました(カーテンの裏で見つかりました)。

そういうバタバタした後に見る寝顔って、すごい愛おしいんだ。いたずらし放題で、部屋をぐちゃぐちゃにした後の、りんちゃんの寝顔がすごく好き。かわいくて、愛おしいです。

あと少しで、りんちゃんは保育園に通うことになるね。うれしいし、がんばっておいでって思っているよ。親としては、ちょっと複雑な気持ちかな。今まで一緒にいれたのに、いれなくなっちゃってごめんねという気持ちもあるし。
おうちで抱っこ抱っこ! という感じのりんちゃんを、抱っこしてあげられなくなっちゃうんだとか思うとちょっとさみしい。

でも、これからいっぱいお友だちができて、外でできるようになったことを家で見せてくれたりするんだろうなと思うと楽しみです。明るい子に育ってほしいな。やさしくて明るい、愛嬌のある子になってくれたらいいなと思っています。

わたしも、復職して仕事のある生活に戻ってしまうから、こんなにりんちゃんと2人でじっくり過ごせる機会はこないのかなと思う。わたしが人生を終えるとき、いつが一番幸せだったかと振り返ったら、たぶん……この手紙を書いている今なんじゃないかな。
この先、保育園、小学校中学校と、りんちゃんが大きくなるにつれて一緒にいる時間って少なくなっちゃうから。

きっと、この手紙を渡す頃、りんちゃんはもう大人で、家にそんなに帰ってこないかもしれない。一人暮らしとかしちゃっているかもしれない。その頃のりんちゃんは全然覚えていないと思うけれど、今りんちゃんと2人、ゆっくり過ごせてすごく幸せです。

2人で毎日いろんなところに行ったり、たくさん歌をうたって踊ったり、2人でベッドでごろんしてお昼寝したり、手を繋いでお外を歩いたり、一緒にカフェでランチをしたり、たくさんお友達とも遊んだね。こうしてゆっくり過ごせた時間が本当に本当に夢のようで、かけがえのない幸せな時間でした。

戻りたくてももう戻れないと思うとすごくすごく寂しくて、今隣で寝ているりんちゃんがとても愛おしい。

たくさん一緒に過ごしてくれてどうもありがとう。

ママにしてくれてありがとう

過去のわたしに、ちゃんと幸せな未来がくるよって伝えたい。
りんちゃんは元気に生まれてくるよ、りんちゃんはりんちゃんなりに、しっかり育っているよって。

りんちゃんっていう女の子がきてくれることを、ずっと願っていた。ずっと待っていた。
だから本当にきてくれてありがとう。会えてよかった。りんちゃんがきてくれてよかった。
飾っていたワンピースをりんちゃんが着てくれたとき、『この瞬間を待ってた、きてもらえてよかった!』って、心から思ったんだよ。

ママにしてくれて本当にありがとう。

今、ここにいるりんちゃんはまだ言葉を話せないけど、これから言葉を覚えて、たくさんお話できるのが楽しみです。

いろんな幸せを教えてくれてありがとう。

そして、保育園入園おめでとう。
これから始まるりんちゃんの人生が、とっても素敵なものになりますように。

2023.3.31
ママより



この文章は、インタビューの内容をもとに執筆しています。